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名古屋地方裁判所 平成8年(行ウ)38号 判決 1999年3月01日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

原告が平成八年六月二八日付けでした下水道法一二条一〇に基づく除害施設新設等届に対し、被告がその受理を拒否した処分を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、原告が被告に対してした下水道法一二条の一〇に基づく除害施設新設等届について、被告が、水質汚濁防止法その他の法令違反があるとして、受理を拒否した行為の処分取消しを求めた抗告訴訟である。

一  争いのない事実等

1  原告は、産業廃棄物、一般廃棄物の収集、運搬、処分処理等を目的とする会社である。

2  被告は、蒲郡市の公共下水道管理者として、平成七年三月三一日、下水道法九条の規定に基づき、愛知県蒲郡市<以下略>(蒲郡処理区西部第九分区)につき、公共下水道(蒲郡処理区)の汚水に係る供用及び処理の開始をした。

3  原告は、愛知県豊田市<以下略>他二〇筆の土地に建設する産業廃棄物最終処分場(以下「本件産業廃棄物処理場」という。)からの廃水(浸出液)を同処分場では処理せず、これを被告の設置管理する右公共下水道に流入させるため、前記蒲郡市<以下略>の土地(原告の関連会社である宮川商事株式会社所有。以下「本件土地」という。)上に原告が廃水処理施設(以下「原告処理施設」という。)を建設する計画を立てていた。

4  原告は、被告に対し、平成八年六月二八日付けで、下水道法一二条の一〇、蒲郡市下水道条例一二条に基づく除害施設新設等届(以下「本件届出」という。)を提出した(甲一)。

5  被告は原告に対し、平成八年七月四日付けの書面(甲二)をもって、概ね次の<1>、<2>の理由により(甲三)本件届出の受付を拒否した(以下「本件受理拒否行為」という。)。

<1> 蒲郡市下水道浄化センター(終末処理場。以下「本件終末処理場」という。)に与える水質の影響が大きいこと。

<2> 本件終末処理場の放流水質を基準以下に抑えるために、従来から地場産業の染色業界団体「東三河染色協同組合」の廃水を蒲郡市の公共下水道に受け入れていないので、原告の処理水の公共下水道への排水を現時点で受け入れることにすると、地場産業である右染色組合の排水の接続を更に遅延させる原因となって、地場産業の理解が得られないこと。

6  条例等の規定

(一) 蒲郡市下水道条例(以下「本件市条例」という。乙一)

第十一条 法第十二条の十第一項に規定する次に定める基準に適合しない下水(水洗便所から排除される汚水及び法第十二条の二第一項又は第五項の規定により公共下水道に排除してはならないこととされるものを除く。)を継続して排除して公共下水道を使用する者は、除害施設の設置その他必要な措置をしなければならない。

四 生物化学的酸素要求量一リットルにつき五日間に六百ミリグラム未満

七 前各号に掲げる物質又は項目以外の物質又は項目で他の条例により当該公共下水道からの放流水に関する排水基準が定められたもの(第四号に掲げる項目に類似する項目及び大腸菌群数を除く。)当該排水基準に係る数値

第十二条 除害施設の新設、増設、改築又は撤去の工事を行おうとする者は、あらかじめ規則で定めるところにより市長に届け出なければならない。届け出た事項の変更をしようとするときも同様とする。

(二) 蒲郡市下水道条例施行規則(以下「本件規則」という。乙二)

第九条 条例第十二条に規定する届け出は、除害施設新設等届(第七号様式)に次の各号に掲げる書類を添付して、工事着手三十日前までに市長に届け出るものとする。(略)

二  争点及び争点に対する当事者の主張

1  本件受理拒否行為は、行政庁の処分といえるか(本案前の主張)。

(被告の主張)

本件訴えは、行政事件訴訟法三条二項の「行政庁の処分」の取消しを求める訴訟であるが、被告が平成八年七月四日付けで本件届出を返却した行為は、「行政庁の処分」には該当しない。

(原告の主張)

下水道の使用者は、除害施設の設置義務(下水道法一二条の一〇)を負い、除害施設新設届を出すことによって、除害施設の設置工事に着工でき、これが完成して後初めて公共下水道への排水の流入が可能となる。

本件届出は、下水道法一二条の一〇の委任を受けた本件市条例一二条により要求される届出であるところ、本件規則九条によれば、この届出は除害施設の新設の三〇日前までになすことを要するとされている。

したがって、本件届出が受理されて三〇日経って初めて、原告は除害施設の新設工事に着工することができるのであり、被告が本件届出を受理することによって、原告は除害施設の新設工事に入ることができるという法的利益を享受することができ、ひいては被告が管理する公共下水道に排水を流入させる経済的利益を享受することができるのであるから、被告が本件届出を受理しないことによって、原告はこのような法的地位を奪われるものであり、本件届出の受理を拒否することは、行政処分に該当する。

2  本件届出には、下水道法、本件市条例違反の記載不備等があるか(適法事由その1)。

(被告の主張)

原告が本件市条例一二条、本件規則九条に基づいて提出した本件届出(甲一)は、別表のとおり「排水の内容」欄の記載に「不備(未記入)」と「違反」があったので、本件受理拒否行為は適法である。

(原告の主張)

被告は、前記」の5<1><2>の理由により、本件届出の受理を拒否したものであり、記載不備を理由として補正のために返戻したものではない。

原告が、本件届出の排水の内容欄に何も記載しなかったのは、そのような物質は、原告の建設予定の原告処理施設から排出されないからである。

仮に原告のした書類の記載の仕方が不備であるのであれば、被告は原告にその補正を命ずべきであり、これを理由にいきなり不受理とすることはできない。

3  原告処理施設からの排水を受け入れることにより、本件終末処理場からの放流水が法令違反になるので本件受理拒否行為が適法となるか(適法事由その2)。

(被告の主張)

(一) 水質汚濁防止法三条、上乗せ条例

本件終末処理場は、水質汚濁防止法第三条第三項に基づく排水基準を定める条例(昭和四七年愛知県条例第四号。以下「上乗せ条例」という。)により、海域及び湖沼に排出する排出水に関し、「化学的酸素要求量(以下「COD」という。)」についての排出許容限度が一リットルにつき最大二五ミリグラム、日間平均二〇ミリグラムと規制されている。

被告は、本件終末処理場からの排水について、右排水基準を順守しなければならない。

生物処理が可能な有機性汚濁物質は、原告処理施設においてほとんど除去されてしまうから、本件終末処理場において、原告処理施設からの排出水について、汚水処理を行っても、さらに有機性汚濁物質を削減することはほとんど期待できない。

したがって、原告処理施設からの排出水を受け入れれば、本件終末処理場の放流水のCODが水質汚濁防止法三条三項、上乗せ条例に違反する。

すなわち、本件届出における原告の計画では、一日当たり二四〇トンが蒲郡市の下水道に排除されるが、原告処理施設による処理後の排出水のCODが一リットルにつき六〇〇ミリグラムであるから、下水道に排除される難分解性のCODに係る汚濁物質量は一日当たり一四四キログラムになる。

本件終末処理場における平成七年度の年間平均の実績は、処理水量が一日に一万四〇一八トン、右処理水中のCODが一リットルにっき一八・四ミリグラムであるから、放流水によるCODの汚濁量は、年間平均一日当たり二五八キログラムとなるところ、原告処理施設から排除される汚濁物質が本件終末処理場において全く処理されずに公共用水域に流出すると仮定すると、原告処理施設からの汚濁物質がそのまま本件終末処理場の汚濁物質量に加算されるので、一日当たり四〇二キログラムになり、放流水のCODは一リットルにつき二八・二ミリグラムと試算される。これは、前記排水基準を超え、水質汚濁防止法に違反することになる。

(二) 染色系工場廃水の受け入れ制限について

蒲郡市には一五社の染色系工場があり、そのうち、下水道整備に伴い下水道が利用できる位置に九工場があるが、この工場廃水中には難分解性のCOD物質を高濃度に含むため、本件終末処理場ではこのCOD物質を処理できず、排水基準が守られない。このため、被告は、これらの工場の団体である東三河染色協同組合と昭和六三年から「覚書」を締結し、下水道利用の自粛を依頼している。

下水道が利用できないこれら工場では、前記上乗せ条例、水質汚濁防止法四条の五第一項及び第二項に基づく総量規制基準等の度重なる水質規制の強化に対応するために、事業内容の制限をしながら右各社の汚水処理施設の維持管理に細心の注意>を払い続けている。

右各社による汚水処理施設の処理水を蒲郡市の下水道に接続するとしても、排水基準違反を招く状態である。

蒲郡市の下水道普及率は現在概ね五一パーセントになり、一般家庭排水の増加に併せて染色系工場廃水の下水道利用水量を徐々に増やしてきた今までの経緯の中で、原告の計画する除害施設からの汚水の下水道接続を認めるとすれば、染色系工場廃水の受け入れ時期がさらに遅延することになり、染色業界の理解を得ることはできない。原告の汚水の下水道接続を認めることは、右覚書の破棄につながりひいては、ますます水質規制基準を超える事態に至る。

(三) 下水道の普及と高度処理施設との優先順位について

本件終末処理場において、原告処理施設からの排水を受け入れると、水質汚濁防止法違反になる。そこで、この事態を解消するには、現有の標準活性汚泥法施設ではCODの規制に対応できないため、高度処理施設の導入を図るしか方策が無いが、排水基準を定める総理府令等の一部を改正する総理府令(平成五年・総理府令第四〇号)により窒素・燐の規制が導入され、閉鎖性海域の富栄養化防止対策の高度処理施設が求められており、さらにCOD対策のための高度処理施設も必要となれば、高額な建設費・維持管理費のために市民に大きな負担を強いることとなる。蒲郡市の現状では、この高度処理施設を導入すると、財政的な理由から、下水管渠の整備が停滞する。蒲郡市の下水道普及率(人口当たり五〇・九パーセント)、水質浄化の現状から考えると、まずは下水管渠を整備して普及率の向上を目指し、生活排水による汚濁負荷料の削減を最優先すべきである。

したがって、都市の健全発達のために、下水管渠の整備を高度処理施設の導入よりも優先しなければならない。

(原告の主張)

(一) 下水道法一〇条は、土地所有者、占有者等に排水施設の設置を義務づけているが、これは、反面、下水道設置管理者に下水道区域の土地からの排水の流入を受け入れる義務を規定したものと解される。したがって、原告処理施設からの排水を本件終末処理場に流入させることによって、仮に本件終末処理場からの排水中のCOD値が水質汚濁防止法違反の事態を招くことになるとしても、被告が原告の排水の受入れを拒否することはできない。

(二) また、原告の排水の受入れだけでは本件終末処理場からの排水中のCOD値が水質汚濁防止法の基準を超えない可能性がある。

被告の計算は、原告処理施設からの汚水のCODが、本件終末処理場では全く処理されない前提で計算されている。しかし、本件終末処理場は生物処理により流入汚水を処理する機能を有するものであり、この処理過程で当然に生物化学的酸素要求量(以下「BOD」という。)が下降するだけでなくCOD値も下がると考えられる。また、原告処理施設で処理後のBOD値及びCOD値は、被告との事前打合わせに基づき仮に設定したものであり、この数値より良い数値(高い除去率)を出せないというのではない。

したがって、原告処理施設からの汚水を本件終末処理場で処理するとしても、このために本件終末処理場からの排水が水質汚濁防止法の排水基準を上回ることが確実ではなく、かえって基準内に納まる可能性が高い。これらの可能性をなんら検討することなく、原告の申請の受理を拒否した処分は到底適法ではない。

4  産業廃棄物処分業者としての事業者処理責任により、本件受理拒否行為が、適法となるか(適法事由その3)。

(被告の主張)

原告は、産業廃棄物処分を業として行う者であるから、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)三条及び一〇条に基づき、事業者処理責任の原則に則り、事業活動に伴って生ずる廃棄物である「産業廃棄物(産業廃棄物最終処分場からの浸出液など)」を自ら処理すべきで、被告の管理する本件公共下水道に排水管を接続してはならない。

よって、本件受理拒否行為は適法である。

(原告の主張)

(一) 廃掃法三条及び一〇条にいう事業者とは、一般的に事業を経営する者若しくは工業的な生産業者という概念であって、これらの法条は、このような生産業を営む事業者が、その事業に伴って生ずる廃棄物を自ら処理すべきことを要求しているものである。

(二) 廃掃法三条の規定は、訓示規定であり、排出者に対し、具体的な法的義務を課するものではない。

同一〇条の規定も、原告のような産業廃棄物処理業者の責任を言ったものではなく、一般的に事業者の排出する廃棄物について言ったもので、この規定はむしろ、地方公共団体も廃棄物の処理事務(事業)を分担すべきことを地方公共団体の責務として定めているのである(二項)。

したがって、原告が今回被告の排水管に接続して流入させようとしている「廃水」が、三条及び一〇条にいう産業廃棄物であるとしても、この規定を根拠として原告の排水の受入れを拒絶することはできない。

(三) 本件土地は、都市計画法の工業地域にあり、この区域に被告の管理する公共下水道管が敷設されている。蒲郡市はこの原告の排水を受け入れて処理すべき義務を下水道法一〇条により負っている。

下水道法及び本件市条例には、原告が事業者であるという理由で、被告が原告の排水の受入れを拒否できるとする定めはない。

この区域内にある事業者は現にここに排水管を接続しており、廃掃法にいう「産業廃棄物」であっても、その工場廃水を被告の下水道管に接続している。

5  原告処理施設からの下水は、下水道法一〇条の「その土地の下水」に該当しないか(適法事由その4)。

(被告の主張)

(一) 下水道法一〇条により下水道への接続義務の生じる「その土地の下水」とは、事業活動に伴って用水が汚染され、下水が初めて生じる場所の汚水をいうのであって、他の土地ですでに生じた汚水を、処理区域に運搬する者に対してまで、接続義務があるわけではない。原告の排水は他の地区から運搬してきた下水であるので、これに該当しない。このことは、下水道法四条により公共下水道管理者が事業計画の認可を受けるに当たり、同法施行令四条一号(予定処理区域及びその周辺の地域の地形及び土地の用途)、同条二号(計画下水量及びその算出の根拠)を定めるところ、他地区からの汚水の下水道接続を無制限に認められなければならないとすると、下水道の事業計画は破綻することが必至であることからも認められる。なお、運搬してきた汚水をそのまま下水道に排除しようとする者も、除害施設を経由して下水道に排除しようとする者も、双方とも下水道への接続義務は無い。もしそうでないとすると、汚水が運搬される土地の公共下水道管理者の意思に係わり無く、汚水を運搬しようとする事業者の自由意思に基づき、処理区域外の汚水を下水道に接続させなければならないという不合理が生じるからである。

原告は、下水道に排除できない汚水を排除できる基準にまで処理するという事業活動を行うのであるから、その土地の下水であると主張するが、原告の事業活動のように、必要に応じて処理したり、処理しないで下水道に排除する他地区から運搬してくる汚水は、原告処理施設において原始的に発生した汚水ではないので、同法一〇条の「その土地の下水」ではない。

(二) 原告が計画する行為は、下水道法一〇条一項の規定による排水設備を設置するものではなく、同法二四条一項三号に該当する排水施設を設置しようとするものであるので、原告は同条に基づき公共下水道管理者の許可を得なければならない。

(三) 名古屋市下水道局が産業廃棄物処理場からの浸出液を下水道に受け入れている例があるが、この産業廃棄物処理業者との協定第一条は、「この協定は、下水道が排水区域又は処理区域外からの下水の排除又は処理を予定しておらず、排水区域又は処理区域内の下水を排除し、又は処理するための施設の総体であるという下水道法の趣旨に鑑み、公共用水域の水質の保全その他公共下水道の機能を保全することを目的とする。」としており、事業者の浸出液が処理区域外の汚水であり、本来的には排水できないことを前提としている。

(原告の主張)

(一) 下水道法二条一号は、下水を、「生活若しくは事業に起因し、若しくは附随する廃水又は雨水をいう」と定義するところ、原告は、原告の豊田市内の本件産業廃棄物処理場からの浸出液及び第三者の工場・事業所から排出される廃油等、廃酸・廃アルカリを、「自社汚水処理施設・中間処理業汚水処理施設」である原告処理施設において、事業として、一定の生物及び化学処理により、排水できる基準内に納まる数値にまで下げる処理を行い、これを排水するものであり、その土地の「事業に起因し若しくは附随する廃水」として下水道法二条一号にいう下水に該当する。

被告は、他所から持込んだ排水を、本件終末処理場で処理することを許容すると、下水道の事業計画に狂いが生ずると主張するが、本件終末処理場は日量で四万八八五〇トンの処理能力があるのに、現在負荷させているのはその三五パーセントにも満たない一万五〇〇〇トンであるところ、原告の排水計画水量は日量で二四〇トンであること、原告の工場の立地する地域は工業地域でありかつ下水道計画区域であって、しかも、現在相当の空地があり今後更に工場の進出が予測されることから、被告の立論は、理由とならない。

被告はまた、いわゆる区域外持込みである故に不当という主張とも受取るべき主張をする。しかし、埋立処分場浸出水は、本件届出では、含油廃水及び廃酸・廃アルカリと同列であり、これらの廃水・汚水を処理するのが原告処理施設である。この場合に、含油廃水及び廃酸・廃アルカリについて、これが下水道区域外で生じた水であるからといって、これを原告処理施設で処理した排水がその土地の下水でないとは決して言えず、原告処理施設で処理する浸出液を処理した排水が、その土地の下水でないとは言えない。

(二) 下水道法二四条一項三号は、かっこ書きで、法一〇条一項の規定により排水設備を設ける場合は許可が不要としているのだから、原告の場合には、下水道法二四条の許可は不要である。

また、下水道法二四条三項は、「暗渠」部分の維持・管理の困難性に配慮した規定であるが、原告の場合は同法一〇条の規定にいう「その土地の下水を公共下水道に流入させるために必要な排水管、排水渠その他の排水施設を設置する場合」に該るから、接続に対する制限はない。

(三) 現に名古屋市等において、他所から排出された浸出水を集荷して下水道終末処理場近くの施設で処理し、この排水を名古屋市の下水道終末処理場で処理している例がある。

被告は、名古屋市の事例は、協定書によって、接続(排水)が創設的に認められたものであると主張するが、この協定の目的は、<1>公共用水域の水質の保全と<2>公共下水道の機能の保全であるところ、第二条以下で定めているところは、大部分右<2>の目的を果すためのものであること、同協定の第一条の文言は、当り前の水道法の趣旨を言っているにすぎないこと、乙と表示されている者の工場が「排水区域」若しくは「処理区域」内外いずれにあるのか否かも分らないから、協定書のみからは、本来受入れを拒否できるのに、この協定によってこの協定書の乙の排水を許容したものであると当然に解することもできない。

6  管理権に基づいて公共下水道の使用を拒否できるか(適法事由その5)。

(被告の主張)

(一) 公の施設の管理権に基づく使用拒否

公共下水道は、地方自治法二四四条一項にいう公の施設であるところ、同条二項は、普通地方公共団体は、正当な理由がない限り、住民が公の施設を利用することを拒んではならないとしている。したがって、正当な理由があれば、公共下水道の使用を拒むことができる。

原告汚水を被告の公共下水道に受け入れると、<1>公共下水道の施設の機能を妨げる汚水を排除し続けることが確実であり、本件終末処理場の放流水質が、下水道法八条の技術上の基準及び水質汚濁防止法で定める排水基準を超えてしまい、下水道法の趣旨目的にそぐわない結果をもたらす、<2>市内染色系工場との覚書違反となる、<3>回復し難い環境・公衆衛生上の害悪が発生するという事態を招くことになる。

したがって、被告がこの事態を回避するために原告の公共下水道の使用を拒否することには、正当な理由がある。

原告は、公の施設の一般使用関係であると主張するが、産業廃棄物処理業者の下水道の利用は、特別使用関係である。

よって、地方自治法二四四条二項を根拠とする公の施設の管理権に基づき、届出を不受理とすることができる。

(二) 下水道法三条に基づく管理権による使用拒否

下水道法三条一項は、「公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理は、市町村が行う。」としており、公共下水道の管理権を市町村に与えている。ここで管理権とは、当該公共施設を公の目的に使用し、できるだけ完全にその本来の目的を達成させるためにする障害の防止及び除去、使用関係の規制等をいう。すなわち、同法一条の都市の健全な発達、公衆衛生の向上、公共用水域の水質の保全という目的の範囲内において、下水道管理者は必要な措置を講ずることができる基本的な管理権を有するものである。この管理権の発動として、下水道を使用しようとするものが使用者の届出をもっていわゆる申込みをしても、その申込みが下水道法一条の趣旨に反するときは拒否できる。

原告処理施設の排水によって、蒲郡市の本件終末処理場からの放流水が公共用水域の水質保全を害するなどの事態が生ずるときは、下水道管理者は、そのような事態を回避するために届出の段階で、管理権により、原告の下水道の使用を拒むことができる。

(原告の主張)

下水道の利用関係は道路の使用関係に類するもので、「他人の使用を妨げない限度で」自由に使用できるものであるから、この理由により被告が、原告の本件申請にかかる下水道の使用を拒絶することはできない。

7  原告は、本件届出ではなく、下水道法一二条の三の届出をしなければならなかったか(適法事由6)。

(被告の主張)

原告処理施設は、水質汚濁防止法施行令一条別表第一の七一の四(産業廃棄物処理業者が設置する産業廃棄物処理施設)又は七四(特定事業場から排出される水の処理施設)に該当する特定施設であり、原告は、本件市条例一二条に基づく除害施設新設等届によるのでなく、下水道法一二条の三に基づく特定施設設置届出書をあらかじめ提出しなければならないものである。

特定施設七一の四は、一定規模以上の処理能力を有する産業廃棄物処理施設をいうが、原告処理施設は、みかけの申請数値ではなく実質的な処理能力によれば、この施設に該当する。

特定施設七四は、特定事業場から収集した汚水又は廃棄物を処理するための施設をいうところ、本件届出の内容によれば、原告が収集する廃酸・廃アルカリ又は含油廃水という廃棄物は、特定事業場から収集されたものと推理されるから、この施設に該当する。

(原告の主張)

原告処理施設は、特定施設ではない。「金属を酸洗いした後の廃液」を処理する場合には、特定施設に該当するが、原告は本件届出当時に、右の「金属を酸洗いした後の廃液」の処理をするとも、しないとも、いずれとも計画していたわけではない。単に廃酸・廃アルカリの処理をする予定であると記述しただけであった。

仮に「金属を酸洗いした後の廃液」を処理する場合が特定施設となり、特定施設新設の設置許可申請をすべきものであるなら、被告がその旨を原告に教示すれば原告は補正することができた。

第三  当裁判所の判断

一  被告が本件届出の受理を拒否した行為は、行政庁の処分といえるか(争点1)。

行政事件訴訟法三条二項の「行政庁の処分」とは、国又は地方公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものであると解されるところ、本件届出が受理されないと、原告は、除害施設の新設工事に着工することができず、除害施設が完成しなければ、公共下水道への排水の流入ができないことになるのであるから、本件届出の受理を拒否することは、直接国民の権利義務を形成することが法律上認められているものとして、行政庁の処分に該当する。

二  本件届出には、下水道法、本件市条例違反の記載不備等があるか(適法事由その一)。

本件届出(甲一)のうち、「排水の内容」欄の記載が、別表「本件届出」欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。これによれば、項目として「カドミウムおよびその化合物」から「温度」まで、「ノルマルヘキサン抽出物質含有量」の動植物油脂類及び「よう素消費量」の各計画欄には記載がなく、「生物化学的酸素要求量」に関する計画の処理水の欄に一リットルにつき五日間に六〇〇ミリグラム、「浮遊物質量」に関する計画の各処理水の欄に一リットルにっき六〇〇ミリグラムとの記載があることが認められる。そこで、これらの記載の意味が問題となる。

未記入の部分に関しては、本件届出の排水の内容の計画欄に記載のないものとあるものがあること、特に「ノルマルヘキサン抽出物質含有量」の鉱油類の欄には記載があるが、動植物油脂類の欄に記載がないことから分かるように、記載がない部分に関しては、原告処理施設から排出されないもの、「温度」に関しては、法令で定める基準以下であるものと解釈されるのであって、未記入であるからといって、記載内容が不備であると認めることはできない。このことは、証拠(甲八、一一、二六、二七、乙一七、二三、証人a、b)により、本件届出前に原告担当者のaが被告担当者のbと原告処理施設の設置に関し、法令上の排水基準等について協議したうえで申請されていることからもうかがえる。

下水道法施行令及び本件市条例の基準によれば、公共下水道を使用する者が排出する下水の基準として、BODについては、一リットルにつき五日間に六百ミリグラム未満、浮遊物質量については、一リットルにつき六百ミリグラム未満と定められているところ、本件届出において、右計画量は、いずれも「六〇〇ミリグラム」と記載されているので、被告は、この記載が本件市条例違反であると主張する。しかし、証拠(甲七、証人a、b)によれば、このような記載は、bがaに手渡した基準表の数値をそのまま記載したにすぎないと解されること、前記のように、本件届出前には事前交渉があったことも考慮すると、六〇〇ミリグラム未満という趣旨の記載であるものと解されるのであり、何ら違反は認められない。

三  原告処理施設からの排水を受け入れることにより、本件終末処理場からの放流水が法令違反になるので本件受理拒否処分が適法となるか(適法事由その2)。

1  法令の定め

(一) 水質汚濁防止法は、工場及び事業場から公共用水域に排出される水の排出及び地下に浸透する水の浸透を規制すること等によって、公共用水域及び地下水の水質の汚濁の防止を図るため(同法一条)、同法三条一項により排水基準を総理府令で定めるとともに、同法三条三項により、都道府県が、当該都道府県の区域に属する公共用水域のうちに、その自然的、社会的条件から判断して、三条一項の排水基準によっては人の健康を保護し、又は生活環境を保全することが十分でないと認められる区域があるときは、その区域に排出される排出水の汚染状態について、政令で定める基準に従い、条例で、三条一項の排水基準にかえて適用すべき三条一項の排水基準よりきびしい許容限度を定める排水基準を定めることができるとしている。

(二) 同法三条一項を受けた「排水基準を定める総理府令(昭和四六年総理府令第三五号)」一条が、排水基準を定めているが、CODの許容限度が、一リットルにつき一六〇ミリグラム、日間平均一二〇ミリグラムと定められ、備考として、「化学的酸素要求量についての排水基準は、海域及び湖沼に排出される排出水に限って適用する」としている(別表第二、備考欄5号)。

(三) 愛知県は、水質汚濁防止法三条三項に基づき、「水質汚濁防止法第三条第三項に基づく排水基準を定める条例(昭和四七年愛知県条例第四号、乙三)」を定め、BOD、COD、浮遊物質量等について排水基準を定める右総理府令より厳しい排水基準を定めている。

(四) 本件終末処理場は、同条例別表第二「六渥美湾・豊川等水域に係る上乗せ排水基準」のうち、最上欄のうち「新設の工場又は事業場」、第三段欄「下水道終末処理施設を有するもの」に該当し、処理水を海域に直接放流しているため、項目及び許容限度欄中の「化学的酸素要求量」について許容限度が一リットルにつき最大二五ミリグラム、日間平均二〇ミリグラムとして規制されている。

2  証拠(甲一、乙一一、一三ないし一五、証人c、同d)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。

(一) 原告処理施設

原告は、本件届出により、原告処理施設における施設の内容及び排水の内容として、一日当たりの処理量は、埋立処分場浸出液一八四立方メートル、含油廃水八立方メートル、廃酸・廃アルカリ四八立方メートルの合計二四〇立方メートルであり、埋立処分場浸出液については凝集加圧浮上法と活性汚泥法により、含油廃水については前記の方法に浮上分離法を加え、廃酸・廃アルカリについては前記の方法に中和処理法を加えて処理する方法により、原水において、CODが一リットルにつき三〇〇〇ミリグラムであったものを六〇〇ミリグラムに処理して、それを蒲郡市の下水道に排除する計画を立てていた(甲一)。

(二) 本件終末処理場

本件終末処理場は、敷地面積一〇万六四〇〇平方メートル、処理能力一日最大四万八八五〇立方メートル、供用開始昭和五二年八月一日、処理方式として、標準活性汚泥法を採用している(乙一四)。活性汚泥法は、自然界に普遍的に存在する微生物の浄化作用を利用したもので、下水中の有機性汚濁物質を最も効率的に除去することができるものであり、全国で稼働している下水道終末処理場で最も広く採用されている処理方式である(乙一一)。具体的には、下水に空気を吹き込み撹拌すると、種々の微生物が下水中の有機物を利用して繁殖し、活性汚泥という凝集性のあるフロックを形成することを利用したもので、反応タンク(=エアレーションタンク)から流出した活性汚泥混合液は、二から三時間程度ゆるやかに流下させる水槽(=最終沈殿池)に入り、重力沈殿により固液分離され、上澄液は消毒した後に処理水として放流される(乙一三)。

なお、本件終末処理場の平成七年度の年間平均実績は、処理水量が一日に一万四〇一八トン、右処理水中のCODが一リットルにつき一八・四ミリグラムであった(当事者間に争いがない)。

(三) 本件届出による本件終末処理場からの放流水中のCOD濃度

本件届出によれば、原告処理施設における排水量は、一日当たり二四〇トンであり、CODの処理水質が一リットルにつき六〇〇ミリグラムであることから、原告処理施設から下水道に排除されるCODに係る汚濁物質量は一日当たり一四四キログラムになる。

本件終末処理場における平成七年度の年間平均の実績は、処理水量が一日に一万四〇一八トン、右処理水中のCODが一リットルにっき一八・四ミリグラムであるから、放流水によるCODの汚濁量は、年間平均一日当たり二五八キログラムとなる。

そこで、原告処理施設からの汚濁物質がそのまま本件終末処理場の汚濁物質量に加算されると、一日当たり四〇二キログラムになり、一日当たりの放流水量が一万四二五八トンとなるから、放流水のCODは一リットルにつき二八・二ミリグラムと試算される(当事者間に争いがない)。

(四) 産業廃棄物最終処分場の浸出液と活性汚泥法による処理の限界

原告が豊田市に計画する本件産業廃棄物処理場は、管理型であり、埋め立てる産業廃棄物自身に含まれる保有水及び雨水等に起因する浸出液(浸出水)が発生する。この浸出水による地下水汚染及び公共用水域の汚染を防ぐために、粘性土や遮水シートによる遮水工、浸出水を集める集水設備と集めた浸出水の処理設備等とを備えた構造となっている(当事者間に争いがない)。

管理型産業廃棄物最終処分場の浸出水の水質は、埋め立てられる産業廃棄物の種類により、大きく変動するものであるが、一般的に<1>BOD及びCOD値が高い、<2>水質変動が大きい、<3>難分解性の有機物質を多く含むと言われている(乙一五)。

難分解性COD物質は、もともと生物処理されない物質であるため、この物質を再度生物処理の一手法である活性汚泥法の施設で処理しても、除去されることは無い(当事者間に争いがない)。

すなわち、難分解性COD物質が主成分になった原告の汚水が、標準活性汚泥法で処理する本件終末処理場に流入し、そこで再度処理するとしても、原告が下水道に排出する難分解性COD物質の処理は進まずそのまま海域に放流されてしまう(証人d)。

(五) 証人cは、浸出液を原告処理施設で処理すると、経験と実績等に基づきCODが確実に一リットル当たり一〇〇ミリグラム前後になると証言する。そして、右証言を根拠づける事実として、同人は、三ないし四の同様の除害施設を設計・製造したことがあること、文献や資料を参照していることを挙げる。

しかしながら、同証人は、CODが一リットル当たり六〇〇ミリグラムであったものが一〇〇ミリグラム前後になる根拠として、「それは今まで造ってきた処理装置と今回造る設備の処理能力からいって、数値的に理論的にどうのこうのじゃない、水処理の場合はデータですね、今までの。」と証言するのみであり、その方法としても、特殊な方法ではなく、ばっき槽で普通の生物処理をした後に凝集反応槽と浮上分離槽において化学処理をして下水に流すとしており、凝固凝集沈殿法、オゾン処理法、フエントン酸化、活性炭吸着等の高度処理法を用いるものではないことが認められる。

原告処理施設と同様の管理型産業廃棄物埋立場における浸出水の性状及び処理状況に関する調査結果(乙一五)によれば、A埋立地では、凝集沈殿-活性汚泥-凝集沈殿-砂濾過で処理した後に塩素消毒した結果、原水調整槽水のCODが、一リットル当たり四五〇から六四〇ミリグラム(平均四八○ミリグラム)であったものが、一六〇から二九〇ミリグラム(平均二二〇ミリグラム)に減少し、除去率は四二・二から五八・三パーセント(平均五三・ニパーセント)であったこと、B埋立地では、活性汚泥-接触酸化-凝集沈殿-砂濾過で処理した後に塩素消毒した結果、原水調整槽水のCODが、一リットル当たり四一〇から一九〇〇ミリグラム(平均一三〇〇ミリグラム)であったものが、五から二一〇ミリグラム(平均六六ミリグラム)に減少し、除去率は八七・六から九八・六パーセント(平均九五・三パーセント)であったこと、C埋立地では、活性汚泥-回転円板-凝集沈殿-砂濾過-活性炭で処理した後に塩素消毒した結果、原水調整槽水のCODが、一リットル当たり三二〇から八一〇ミリグラム(平均五六〇ミリグラム)であったものが、一二から一六〇ミリグラム(平均八○ミリグラム)に減少し、除去率は六五・六から九六・六パーセント(平均八四・三パーセント)であったことが認められる。

このような施設において、CODの除去率が五三から九五パーセントであることと、原告処理施設における原水が前記のとおり一リットル当たり三〇〇〇ミリグラムであったことを考慮すると、原告処理施設でこの工程による処理を経た場合にCOD除去率を九五パーセントとしても一リットル当たり一五〇ミリグラムとなるのであって、c証人が証言するように、一リットル当たり一〇〇ミリグラム前後に減ずるものとは解されない。原告は、乙一五が昭和六〇年から二年間行われた調査であり・現在は技術進歩により、COD除去率は九五から九七パーセントであると主張するが、これを裏付ける証拠はなく、にわかに信用できない。また、証人cの証言によれば、原告処理施設においては、凝集沈殿処理工程を経た後に、化学処理するとされており、中間処理施設新設工事設計計算書(甲二五)によれば、原告処理施設においては、凝集反応槽(2)の工程において、PAC等の化学処理をする計画であるが、この工程によってCODが減ずるかどうか、減ずる程度はどのくらいかは不明であり、これを裏付ける証拠もないので、信用できない。

3  以上のように、本件届出当時、本件終末処理場において、原告処理施設からの排水がその計画どおりであるとすると、原告処理施設で処理しきれなかったCODは難解性のものであり、本件終末処理場で処理しても、ほとんど除去されないものと解されるので、計画数量である一リットル当たり一〇〇ミリグラム以上がそれまでの本件終末処理場から加算して放流水中に含まれることになるから、被告が本件終末処理場から公共用水域に放流する排水中のCODが、上乗せ条例の排水基準を超えることは明らかであるといわなければならない。

4  そこで、このように、原告処理施設からの排水をそのまま処理すると本件終末処理場において、水質汚濁防止法、上乗せ条例違反になるとして、被告が原告の本件届出の受理を拒否できるか問題となる。

下水道法一二条の一〇は、同法一二条の二の規定により公共下水道に排除してはならないこととされている下水以外で、一定の基準に適合しない下水を継続して排除して公共下水道を使用する者に対し、除害施設を設け又は必要な措置をしなければならない旨条例で義務づけることができる権限を公共下水道管理者に与えるものであり、右規定を受けて、本件市条例一一条で、一定の基準に適合しない下水を継続して排除して公共下水道を使用する者に対し、除害施設の設置その他必要な措置をしなければならない旨の義務づけをし、同一二条で、除害施設の新設等の工事を行おうとする者に、あらかじめ被告に届出をしなければならないとして義務を課している(なお、本件規則九条は、右届出の方式を定めるものである。)。同条例一一条における除外施設の設置が必要となる下水の基準として、四号において、BODが一リットルにつき五日間に六百ミリグラム未満、七号において、前各号に掲げる物質又は項目以外の物質又は項目で他の条例により当該公共下水道からの放流水に関する排水基準が定められたもの(第四号に掲げる項目に類似する項目及び大腸菌群数を除く。)が当該排水基準に係る数値と定められている。

以上の各規定によれば、除害施設の設置が義務付けられる排水基準として、BODは四号において要求されているが、CODは、一から六号に該当しないことはもとより、七号においても、「第四号に掲げる項目に類似する項目」として除外されているので(CODは、BODの類似項目といわれている。)要求されていない。そして、下水道法一二条の一〇第二項において準用する一二条の二第四項が、一二条の一○第一項の条例について、公共下水道からの放流水又は流域下水道からの放流水の水質を第八条の技術上の基準に適合させるために必要な最小限度のものであり、かつ、公共下水道を使用する者に不当な義務を課することとならないものでなければならないとしている趣旨からすると、その類推適用の余地もないものと解さざるを得ない。

したがって、法は、除害施設の設置基準として、下水中のCODは考慮しない態度を採っているものであり、立法論としてはともかく、解釈論として、本件届出について、CODの排水基準が守られないことになるという理由で受理しないことはできないものと解される。

四  原告処理施設からの下水は、下水道法一〇条の「その土地の下水」に該当しないか(適法事由その4)。

1  下水道法一二条の一〇及びこれを受けた本件市条例一二条により、届出を義務づけられる者とは、下水を排除して公共下水道を使用する者であり、ここでいう「下水」とは何かが問題となる。

下水とは、「生活若しくは事業に起因し、若しくは附随する廃水又は雨水をいう」をいう(下水道法二条一号)。

原告は、「自社汚水処理施設・中間処理業汚水処理施設」である原告処理施設において、原告の豊田市内の本件産業廃棄物処理場からの浸出液及び第三者の工場・事業所から排出される廃油等、廃酸・廃アルカリを、事業として、一定の生物及び化学処理により、排水できる基準内に納まる数値にまで下げる処理を行い、これを排水するものであるから、これらの排水は、「事業に起因し若しくは附随する廃水」として下水に該当すると主張する。

2  下水道法は、公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理は、市町村が行うものとしており(下水道法三条一項)、二以上の市町村が受益し、かつ、関係市町村のみでは設置することが困難であると認められる場合には、都道府県が関係市町村と協議して、当該公共下水道の設置、改築、修繕、維持その他の管理を行うことができるとしている(同条二項)。

公共下水道を設置しようとするときには、公共下水道管理者は、あらかじめ、政令で定めるところにより、事業計画を定め、建設大臣の認可を受けなければらならないとされている(四条一項)。右政令である下水道法施行令四条においては、申請書に、予定処理区域及びその周辺の地域の地形及び土地の用途、計画下水量及びその算出の根拠、公共下水道からの放流水及び処理施設において処理すべき、又は流域関連公共下水道から流域下水道に流入する下水の予定水質並びにその推定の根拠等を記載した書類を添附しなければならないとされている。事業計画には、排水施設の配置、構造及び能力並びに予定処理区域や終末処理場の配置、構造及び能力等を定めなければならないとされ(下水道法五条一項)、建設大臣は、事業計画の認可に当たり、公共下水道の配置及び能力が当該地域における降水量、人口その他の下水の量及び水質に影響を及ぼすおそれのある要因、地形及び土地の用途並びに下水の放流先の状況を考慮して適切に定められていること、予定処理区域が排水施設及び終末処理場の配置及び能力に相応していること等の基準に適合しているかどうかを審査するとされている(六条)。

また、公共下水道の供用が開始された場合、当該公共下水道の排水区域内の土地の所有者等は、遅滞なく、その土地の下水を公共下水道に流入させるための排水設備を設置しなければならないとされている(一〇条一項)。

以上のような規定によれば、法は、公共下水道の設置・管理等を市町村の責務としており、当該市町村における予定処理区域及びその周辺の地域の地形及び土地の用途等から当該予定処理区域において予想される下水道量を算定し、終末処理場の配置、構造及び能力等を勘案して事業計画を定めるものとしていることが認められる。また、乙一六によれば、名古屋市がその公共下水道の排水区域内にない産業廃棄物処分業者との間で行った「浸出液下水の公共下水道排除に関する協定」において、排水区域外からの浸出液を受け入れている例があるが、同協定第1条は、「この協定は、下水道が排水区域又は処理区域外からの下水の排除又は処理を予定しておらず」と明示している。

このように、下水道量は、当該市町村における予定処理区域における下水を前提としているものであり、下水道法一〇条もその土地における下水を排出することを前提としていることが明らかであるから、予定処理区域外の他の地方公共団体からの排水を予定処理区域に運搬して、何らの加工・処理等をすることなく下水として排出することは法が予定していないものであり、その趣旨からすると、予定処理区域外の他の地方公共団体からの排水を当該排水区域内に運搬し、そこで何らかの処理をした排水がすべて、下水道法二条にいう「事業に起因する」廃水と解することはできない。事業とは、最も広い意味を持つ事業の概念であるが、単に、運搬してきた排水を水槽や倉庫などで保管し、それをそのまま排水として処分する行為は事業に該当しないと解すべきである。そこで、原告処理施設における処理が、事業に該当するか問題となる。

3  前記三2(一)に認定したとおり、原告処理施設においては、一日当たり、埋立処分場浸出液一八四立方メートル、含油廃水八立方メートル、廃酸・廃アルカリ四八立方メートルの合計二四〇立方メートルを浮上分離法、凝集加圧浮上法、活性汚泥法、中和処理法による処理方法で処理し、処分後の排水を蒲郡市の下水道に排除する計画であった。

埋立処分場浸出液が、原告の豊田市における本件産業廃棄物処理場における浸出液であること、排水基準の範囲内であれば、原告は、何らの処置を加えず、本件産業廃棄物処理場からの排出水をそのまま排出する場合もあることは当事者間に争いがなく、原告処理施設は、そのままでは下水道に排出できない浸出液を蒲郡市の下水道に排除できる程度の状態にまで除害する除害施設そのものであり、それ以上でもそれ以下でもない。

下水道法上は、除害施設により除害されるべき対象物が下水であるから、本件の場合は、産業廃棄物処分場からの浸出液そのものが下水に該当するか否かが判断されることになる。

法文上のみならず、原告処理施設の処理の内容からしても、原告処理施設における処理では、「事業」に該当しないものといわざるを得ない。

4  原告は、埋立処分揚浸出水は、本件届出では、含油廃水及び廃酸・廃アルカリと同列であり、これらの廃水・汚水を処理するのが原告処理施設であるから、含油廃水及び廃酸・廃アルカリと同様に、原告処理施設で処理した排水が下水でないとはいえないと主張する。しかし、弁論の全趣旨によれば、本件届出当時、埋立処分場浸出水の処理以外については具体化していなかった上、前記のとおり、原告処理施設における処理水に占める埋立処分場浸出水の割合が多いことを考慮すると、含油廃水及び廃酸・廃アルカリの処理を行うものであるとしても、全体として一事業に該当するものではないと解される。

5  したがって、原告処理施設からの廃水は、事業に起因するものでないので、下水道法一二の一〇、本件市条例一二条の下水に該当せず、その除害施設の設置届出ということにはならないので、被告が本件受理拒否行為を行ったことは適法である。

6  被告が本件受理拒否行為を行った理由は、右理由とは異なるが、客観的に右行為時点で、適法であったと判断されるものであれば、右行為時に付された理由とは別の理由で適法と判断することも差し支えない。

五  以上によれば、その余を判断するまでもなく、被告による本件受理拒否行為は適法であるから、原告の請求は理由がない。

六  よって、原告の請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 野田武明 裁判官 佐藤哲治 裁判官 安永武央)

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